人鳴
※前置き
MMO女神転生IMAGINEの二次創作でキャラの特性をつかむためのショートショートになります。
運営様、不適切ならば即座に消しますので、どうぞよろしくお願いします。
西暦205X年 トウキョウ
「人間界に来るの久しぶりだなー」
荒れ果てた地、かつてはトウキョウだったその地に、突如それは現れた。
動物の耳を模した突起の付いたフード、裾がボロボロになった全身が隠れる白いコート、首に巻かれた赤いマフラーが特徴的な人物。
本名カルティケーニャ、もとい、ルカと呼ばれている。
魔人となり異界へ旅立った師である来栖ケイを追い、自らも魔人となって異界へ旅立ってから何年経っただろうか。
魔人となった時の20歳の姿のまま、時間という概念から外れた彼女には、その正確な年月が把握できないでいた。
「千年王国、ねえ」
現れてまず目に入ったのは、遠くからでもその巨大さが見て取れる建造物、TOKYOミレニアム。
自分が去りし後に、メシア教団が勢力を伸ばしトウキョウすべてを掌握した証。
今では対抗できるものもなく、恐怖政治と化した偽りの楽園。
何度見ても気分のいいものではない。
複雑な思いでそれを見つめていたルカだったが、少しして諦めにも似た溜息と同時に姿を消した。
次に現れたのは地下世界。
TOKYOミレニアムという巨大な蓋の下に存在するかつてのトウキョウ。
陥没してしまってはいるが、まだ面影が残り、建造物もそのまま残っているものもある。
「ほんと、こっち来たら、どこ行っても誰もいないもんなー。つまんないや」
自分が姿を見せる直前まで人の気配がしていたが、それも今は全く感じられない。
噂によると妖精もここに存在しているらしいが、一度たりとも見たことがない。
ルカは魔人になってからというもの、人間界へ訪れても誰とも出会えないという寂しい思いをしていた。
誰かとなんか話をしたい。
人間であった頃は、当たり前のようにレジスタンスの仲間と騒いだりしていたけれど、今はもうそれもできない。
自分が居なくなってから、多くの仲間が命を落として、レジスタンスは壊滅したと聞いた。
異界へ渡ったことは後悔はしていないけれど、あの時、ここに残っていれば未来は変わっていたかもしれない。
そう思うと、胸が締め付けられる。
「ああ、苦しいなあ、悔しいなあ。……今となっては遅いけどさ」
自虐的な笑みを見せ、目的の場所へ歩いていく。
誰もいない埃まみれの通路を抜けて、少し開けた場所に出る。
そこは今にも崩れそうな建造物と、その周りに小さな墓標が立ち並んでいた。
「また来たよ、ただいま、みんな」
かつてレジスタンスのリーダーをしていた頃、拠点にしていた場所。
みんなで一緒に食事をしたテーブルに椅子。
大切な戦友を失くし涙した広場。
ルカにとって、たくさんの思い出が詰まった特別な場所。
彼女は時折、ここを訪れていた。
何かするわけでもない、ただそこに居る。
それだけだった。
先客がいたのだ。
墓標の前でひざまずく男性と思しき人影。
熱心に祈りをささげているらしく、ゆっくり近づくルカに気付いていないようだ。
「姉ちゃん、俺強くなって見せるから、絶対仇討つから……」
声をかけようとルカが手を伸ばした瞬間、素早い銀の一閃が眼前を滑る。
「うわっと」
驚いてよろめくルカと目が合ったその顔は驚愕の表情を浮かべ、いつの間に抜いたのか剣を構えている。
「お、お前は……」
見たところ、それなりに歴線をくぐり抜けてきたであろう屈強なデビルバスターといった感じを受ける。
歳は20代前半、ところどころに青を取り入れた防具に、手入れの行きとどいた斬れ味のよさそうな剣。
額にある大きな傷跡も相まって、鋭い眼光の持ち主であった。
普通の悪魔ならば、戦意喪失するほどの殺気を発している。
しかし、ルカはデビルバスター最強と謳われた来栖ケイの弟子である。
その向けられた殺気に全く動じることはなく、男を見つめていた。
見つめて、軽く首をかしげて少し唸ると、あ、閃いた!とばかりにポンと手を打った。
「もしかして、ナオヤ? アカネの弟のナオヤじゃない?」
「んな!? なぜ俺の名を知っているっ!?」
「あーやっぱり! ナオヤじゃん、久しぶりー! って大きくなったね! 前は小さかったのに、こんな立派になってー」
さっきと打って変わって、ものすごく満面の笑みを浮かべてルカは近寄っていく。
ナオヤと呼ばれた男はギョッとした顔で更に飛び退く。
「え、ちょっと待ってよ。逃げなくてもよくない? 私だよ、ルカだよ。覚えてないの?」
「く、来るな!! こっちに来るな!!」
「いやいやいや、冗談はやめようよ。ルカだってば! もうやだなあ」
近づくルカ、逃げるナオヤ。
一向に縮まらない距離、いや広がっていく距離。
息荒く必死の形相で睨みつけるナオヤの様子に、ルカは足をとめた。
「ごめんごめん。いきなりすぎたね、マジごめん。落ち着こう、ね? ナオヤ落ち着こう」
「何が目的だ、貴様」
ナオヤの剣を持つ手が震えている。
「目的なんかないよ、ただ会えてうれしかったから」
「会えて、嬉し……いだと?」
「うん、こっち来てからさ、みんな逃げちゃってさ、誰もいないんだよね。人に会えて嬉しいのもあるんだけど、まさかレジスタンスの仲間が生きていたなんて、こんな嬉しいことはないよ。ナオヤ、生きててくれてありがとね」
「……さっきから何をわけのわからないことを言っている。レジスタンスは俺以外、みんな死んだ。しかも、さっきから聞いていれば、ルカさんの名を気安く語りやがって……誰だよお前!!」
「だから、ルカだってば! さっきから言ってるじゃん。魔人になったから、年齢止まっちゃってさ。あ、でも、ほら、これでわかるでしょ?」
ルカは被っていたフードを脱いだ。
現れたのはポニーテールの銀髪、紅玉のような透き通った瞳、人懐っこい笑顔。
以前の人間だった頃のルカなら、そうだっただろう。
しかし、ナオヤの目に映ったのは、死神。
冷たい針のような髪を持ち、生々しい血の色の目に、口を歪めて笑うおぞましい死神。
ナオヤの震えが腕から体全体に広がっていくのが、見ていてもわかる。
「怖がらなくても大丈夫だよ。何もしないから」
段々険しくなるナオヤの顔に、ルカは困った様子で一生懸命に説得しようとしている。
だが無駄だった。
苦痛に歪んだナオヤの顔を見ているだけで苦しい。
なんで分かってもらえないんだろう。
魔人だから?
私は私なのに、何も変わってなんかいないのに。
「そ、そんなわけ……お前はルカさんなんかじゃない! ルカさんは俺の憧れだったんだ。強くて、優しくて、すごく綺麗だった! この青い防具だってあの人に近付きたくて作ったのに、いきなり居なくなって、戻ってきたら魔人? なんだよそれ。ルカさんだってんなら、なんでそんな禍々しいオーラを放つんだよ、なんで! 俺の前から消えろ! 俺のルカさんを穢すな! 化け物!!」
ううん、そうじゃない。
私の身勝手な都合で置いて行ってしまった。
みんなを危険にさらすと分かっていながら、甘えてしまったんだ。
許してもらおうなんて思わない。
「あああっ!」
泣きながら剣を振りかざし突進してくるナオヤをルカは避けなかった。
「ごめんね」
その一言を残し、ルカの姿は溶けて消えた。
後に残ったのは泣き崩れるナオヤと、その剣に付いた赤い血だけだった。